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1999.9.22 Wed.
ため息

【お願い】もしも白文字の独り言に気づいてしまったなら、掲示板に一言「気づいた★」とだけ書いてください。それ以上は勘弁してください。追求とかね。
読んだら、押してみるの方向で…
 
 先日明け方にTVで若い恋人たちのドキュメンタリータッチの番組を見た。
恋人たちが過ごす部屋に無人のカメラを置いて、二人の何気ない会話をそのまま放送する番組らしい。
そういう番組があるのは以前から知っていたが、きちんと番組の始めから終わりまで見たのは初めてだった。


 その日は24歳のフリーアルバイターと26歳のイベントコンパニオンのカップル。
二人は鬼才・スタンリー=キューブリック監督の遺作「アイズ・ワイド・シャット」を観てきたようだった。その話題作、僕はまだ未観なのだが、番組中のテロップによれば、妻の妄想の浮気に嫉妬する夫の物語なのだそう。
性愛に対する表現の過激さが話題で成人指定を受けたその映画を観てきた二人は部屋に戻るなり愛情観についての話を始める 。

 細かいディテールは覚えていないが、話は大体こんな感じだった。
女はセックスと愛情は別だという立場で話をしていた。状況によっては目の前の男以外の男性とそういう関係になるだろうと云う。男は、愛しているからセックスをするのだと、目の前の女以外の女性とそういう関係になることはないと断言する。

男は女を愛していると云った。女はたかだか2ヶ月で何故そういうことが云えるのだと聞き返す。

男は論理的に説明できないが、自分なりに確信している様子で自分の確信は正しいと主張する。

女は相手の主張を揺さぶろうといろいろと話をする。
それは、男の言葉をより深く信じたいがために、簡単にそう断言する男の決意の深さを測るために相手の論理の弱点を突いてゆくようだった。

 そんなやりとりがあっても、喧嘩にはならず、結局二人はカメラの視野の向こうのベッドへと消えてゆくのだが、そこまでの二人のやりとりを見ながらそんな会話の経験が自分にもあったことを思い出す。

 セックスと愛情が別なのか、愛情とは何かをここで論ずることはしない。それぞれが皆それぞれの真実を持っているだろうから。

 しかし、そういうやりとりで恋人たちは相手愛情観を測りあい、信頼関係を築いてゆこうとするのか。僕は過去渦中にそのように考えることが出来なかった。お互いの間に愛情があるという感覚は事実で、確固たるものだと思っていた。それは幻想だとか、そんなものは存在しないとか云われていることも知っている。しかし、それが、思いこみによる錯覚かもしれなくとも、確かに感じたのだ。
熱いとか、冷たいとか、痛いとか、臭いとかというのと同じように相手に対する愛おしさがこみ上げてくる感覚を疑う余地はなかった。

 番組の中の二人がどうであったかはわからないが、確信は二人の間の共通のものだと信じていたのに、相手がその確信を覆そうとする。番組の中の男は、自分の確信の強さよりも相手のとった態度にうろたえ、冷静でいられなくなる。

 おそらくは女の方は男の答えを事前に予測し、会話を仕掛けたのだろう。結局は女が男を上手くあしらって喧嘩にはならずに番組は終わる。
独りでTVの画面を眺めながら、女の術中にはまり、何とか喧嘩にならないでくれと祈るような気持ちで次の言葉を探す男に感情移入した。

 哀れな男の境遇を羨ましくも懐かしく感じながら、番組を見終わった僕の口からため息が漏れた。


   



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Akiary v.0.42